中央区には事業所が約4万社あります。そこで働いている人は72万人に上ります。商売が上向きになればこの72万人の人が幸せになれます。私の役目は中央区の企業や働く人が幸せになるお手伝いをする事です。
起業、廃業、倒産、第2創業、バブル、事業承継、相続、これら全てを事業の現場で体験した屈指のコンサルタント「岩田剛三」が体験を通して感じた商売や生き方のコツを皆さんにお話しします。

  前回のコラムで会社の寿命の話をしましたが、現実の社会、特に私の周りを見回してみると結構多くの会社が無くなりました。建設業のKさん、Tさん、和菓子屋のIさん、印刷屋のTさん、Dさん、広告代理店のWさん、ホテル経営のSさん、Mさん、料亭のNさん、Yさん等々。この中の半数の方は投資に失敗、残り四分の壱の方が拡大して失敗、残り四分の壱の方が時代に対応できなかったという感じです。特にバブル時代に傷を負った人は癒えるまでに20年かかりました。傷の治療をしている間に時代の変化に取り残された人もいます。投資に失敗した人は自己責任として問題は時代の変化についていけない町の魚屋や金物屋さん的な業種です。年々衰退していきますから、中にはコンサルタントに依頼する人もいます。そうすると、コンサルタントはあそこではこうやって、別の会社ではこうやってやりました、と実例を挙げて説明してくれるのですが、それは希少な例なので同じパターンでどこの会社でも同じには再生できません。特に滅びゆく業種の場合は一旦休憩なり、退場するなりして傷が浅い内に再起の準備をした方がいいと私は思います。


 私の知り合いの会社ですが、業務用の食材の製造販売をやっていました。和食の食材です。主に冠婚葬祭用の食材でお得意さんは結婚式場が主体でした。バブルの頃は景気も良く、和食の結婚式も多く売上も順調に上がっていきました。ピーク時は売上も10億程度あったようです。しかし、バブルも弾け不景気により売上降下、さらに結婚式の洋風化や地味婚や考え方の変化も進み、毎年毎年10%売上げが落ちていきました。作っているものが特殊な商品の為他の対応がなかなか出来ません。ただ、商品の中で一般消費者にも売れる商品があり、その商品をブランディングして売上げの増強を図りました。売れるシナリオも上手に作り、当時3000万位しかなかったこの商品が僅か数年で3億程度まで伸び、右肩上がりで推移していました。しかし、いかんせん元の主力商品の落ち込みが止まりません。設備や人も売上の多い時代に合わせているので、過剰な設備や人が足を引っ張ります。そこである著名なコンサルタントに相談しました。会社の業況を説明すると、そのコンサルタントが社長に聞きました。


 「社長、10年後に会社を継ぐ人はいますか?」はたと考えました。お子さんは娘さんだけで後継ぎがいないのです。(女性が後を継ぐのは全く問題ないのですが、この場合は難しかったのです。)そこで、そのコンサルタントは社長に引退を勧めました。そう、引退です。現在勤めている従業員の雇用も確保しながら、他の人(会社)に社長を譲るとういう計画です。まずは財政面を検討、銀行に借金もありましたが資産もあるので、まず別会社を作りそこに営業を移しました。更に工場を今の売り上げ規模に合わせた大きさの所に移転しました。そして、元の工場跡地は賃貸物件にしてこの収入で社長が借金を返しながら生計を立てます。そして、営業会社の社長を探したのです。結果的にM&Aという形で引受先が見つかりました。その際に従業員には全員今まで積んでいた退職金を支払いました。勿論雇用は継続され、今でもこの会社は見事に存続しています。もし、このコンサルタントが社長に頑張れと言って、そのまま継続していく作戦を立てたら、この会社や社長個人の資産は益々劣化して恐らく法的整理していたかも知れません。なかなか難しいのですが、今の時代はいつまでも頑張ってもどうにもならない状況もあるので、引く事も重要だと思います。特に日本の場合は社長が借入金の連帯保証をしていますので、最後は銀行にケツノケまで抜かれ再起は難しいのです。


 時代が変わる。そんな事を実感する毎日が続きます。今やパソコンがないと仕事にならないし、1ドルいくらしようと関係なかった筈なのに円の価格が生活に影響があるし、町の小さなお店はどんどん無くなるし、ズボンのタックはノータックになるし(学生時代はタック付きの方がカッコいいとされていました!)、下着はユニクロのエアリズムだし、ある日突然行列のできる店が出来るし、あれやこれや思い返せば本当に時代の変化するスピードは速いです。去年と同じことを同じようにやって同じように利益が出る会社はいいです。素晴らしいです。時代の変化に巻き込まれていく業種は今や大変です。その中で頑張らないという選択肢も視野に入れて頑張ってみて下さいね。あれ、頑張らなくてもいいんですが…。


 貴方と貴方の大切な方の努力がきちんと報われて、Lサイズの幸せが来ます様に…。



 

平成27年 皐月

 

  
 
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