矢田区長インタビュー 「快適な都心居住推進本部」を設置

 中央区は矢田美英氏が始めて区長に就任した翌年(昭和63年)の1月に人口回復宣言をすると同時に全庁あげて人口回復対策本部を設置し、区政の柱を人口回復に据えた。以来、地区計画などの改正をはかり地区別のまちづくりに取りくんだ。バブル崩壊後の不況打破の目論みもあって、国は住宅に限って容積を緩和する規制緩和を実施。これにより都心の底地買いされた空地に次々と高層マンションが出現した。空地を利用しているうちは人口増に結びついていたものの、長びく不況で倒産した企業の社屋跡地が場ちがいなマンションに転ずるに及んで、区民の間から町の行方を不安視する声が高まってきた。同時に人口が増えたことで子育てや介護など新たな行政需要もでてきた。そこで矢田区長は正月4日の賀詞交歓会で、人口回復対策本部に代って新たに「快適な都心居住推進本部」を設置したことを明らかにした。中央区は既成市街地で成りたち、町会など住民自治が充実しているため区政はそれを拠り所に展開ができた。ところが新しい住民が人口の半分を占めるに至って区政のカジ取りに多様な対応が求められるようになってきた。当然、行政の姿勢そのものが問われ、質の転換が必要となってきた。そこで新年に当たり矢田区長にインタビューして、推進本部を設置した意図などについて聞いた。区長は「行政スピードが重要で、量から質の転換が求められている」と指摘し、新たな方向性を明らかにした。


4月から「すぐやる課」を新設


 矢田さんが区長に就任した翌年(昭和63年)の1月1日に「人口回復対策本部」を設置し、以来、区政の柱は人口回復に置かれ、その結果、人口は9万人も目前、目標の10万人も射程に入ってきました。そこで、人口回復対策本部を発展的に解消して、新たに「快適な都心居住推進本部」を新年の元旦に設置しました。これは、新たな行政課題に応えていこうという決意の表れと思いますが、区長の意図するところをお聞かせください。

新たな行政課題に応えるため

 「昭和63年1月1日に人口回復元年を宣言して、人口回復対策本部を設置したんですが、当時は年に2,000人から3,000人も減少していて、区民の皆さんから、人が住める町を作ってほしい、という要望が強く、これに応えるため全庁あげて取り組むことにしたわけです。おかげさまで、住環境の整備を中心にした総合的な施策展開により、人口が回復したものと認識しております。45年間、一貫して減少をたどってきた人口が平成10年からは7年連続の増加となったわけです。7年間に約15,000人、何んと24.2%、4分の1は回復したわけでね、これはやっぱり評価すべきものと思います。今、マニフェスト流行りですが、本区においていち早く、そうしたマニフェスト、政権公約を表明して、それを実現できたこと、これは本当に区民の皆さんのご支援、ご協力の賜でありまして感謝しているところであります」
 「ただ、これで万々歳かというとそうではなくて、様ざまな課題がでてきております。その最たるものが都市基盤整備。お隣りの江東区では人口が増えて小学校が足りなくなっている。これは対岸の火事ということではなくて、既に保育園には待機児が、特養ホームでも待機者がでているといった問題がありますから、何といっても基盤整備をしっかりして、予測を立て計画をはかっていく、このことに快適な都心居住推進本部を設けた大きな狙いがあるわけなんです。今のまちづくりをみても、銀座イースト問題のように相隣問題がずいぶん出ています。巨大な壁が自分の家の前に現れることは、誰だって抵抗感あるわけですからね。たしかに集合住宅が建て易くなった効果というものはありました。一定の成果をあげたと思います。しかしワンルームとかウィークリーマンションの問題も出てきていますので、容積や高さを制限する必要性が求められています。そういうことで、まちづくり全体のシステムを見直そうと、地区計画など新たな規制に着手していきます」
 「それから、今まではともすると縦割り行政で区民や新しい住民から不満が多かったんですが、これをどんな問題でも即対応できるようにと、4月1日からは『何でもする課』を新設します。これは、どんな問題でもすぐやるんだということで、区に変わることはもとより、国や東京都に関することでも、区民の要望があれば、それを区民になり代って実現していく、こういう新しいシステムをつくりあげようということです」


行政の量から質への転換を
 「それと、やっぱり景気の問題ですね。景気が非常に低迷しているということで、中央区に45,000もある事業所の皆さん方、この人たちが快適に仕事ができること、これが本区の魅力であるわけですから、そういった面での私たちの努力、これもやらなくてはいけない。それから『風格あるまちづくり』ね、首都の核にふさわしいまちづくりができているかと言うと、そうでない面が沢山あるわけですね。日本橋の上空をおおう高速道路を撤去する問題などですね。他にもバリアフリーが充分でない、照明の薄暗い所があるといった問題など、これまでの人口回復対策本部もそうでしたが、総合的な施策を展開していくわけですけれども、これからは量も大事だけれども質の面でもっと全区民あげて知恵をしぼっていこう、こういうことです、狙いとしましてはね。


区道付け換えに新たな基準を


 人口は増えたものの、相次ぐ高層マンションは中央区の町並を形成してきた横丁や路地を壊すとか、新住民と町会の関係が形成されないなど、多くの課題を生じています。新住民と住み続けてきた住民とのギャップを埋めるには、当面、何が必要と考えますか。

 「私の所(新富)でも幼少の頃は、横丁から入った路地裏が遊び場でしたからね。今は道路が車で混雑して遊び場というわけにはいかなくなった。だから工夫して路地に代わる公開空地を増やす手だてなどを活用しています。やっぱり中央区は千代田区と比べると町の街区が意外に小さいんですよね。だから、ビルを建てるとどうしても圧迫感があるわけで、さっき言ったように容積や高さ制限なんかで工夫していかなきゃいけないんですが、引き続き公開空地やポケットパーク的なものを町の中に創り出していかなくてはいけないなと思います。幸せなことに中央区の道路率は26%もあって、これは23区でも断突の数字でね、だからこれを有効に活用したいなと思っています。たとえば浜町の再開発では四つの区道を付け替えていますから、それに見合うような公開空地とか地域のためになるような施設を作ることによって、路地がなくなったマイナス面を補う、あるいはそれ以上のものを創出することに努めています。その面で、区道の付け替えに代るプラス面、地域貢献策を検討しているところです」
 「それから新しい住民とのギャップという問題ね。江戸っ子は3代からって言うけどね、中央区の48,000世帯のうち3代続いている世帯って、そんなにないんだよね。中央区という所は排他的じゃなくてね、どんどんいらっしゃいということで今迄来ていますし、新しい人も中央区の素晴らしいコミユニティにとけこんで来たという歴史があるわけです。そういう面では、新しい住民とこれまでの住民とのギャップは、それほど心配するものではない、というふうに思っています。区議会でも、土地っ子で議員になった方もいますけど、新しい住民が区議会議員になって代弁者となり、よくなっている面がずい分ありますから。それに町会長、民生委員、青少年委員やPTAでも子育て、教育問題、介護、祭りやイベントに積極的に参加していくことでこれまで居た人たちと一体になって活動されています。これはもう江戸400年で繰り返されてきたことで、その中で進取の精神が豊かになってきたんですから、その点では心配していません。ただ行政のサポートは必要ですから、そこをきめ細かに対応していくことは、また推進本部でしなければなりませんね」


 新しく中央区に住んで、子育てを迎える若い人は情報を得るためにホームページに求める傾向が強いのですが、このあたりについてはどう考えますか。

 「中央区のホームページは昨年7月にリニューアルしたんですが、他区よりも遅れているという批判もあるようですので、これを真摯に受けとめて直ちに改善したい。『すぐやる課』を作るわけですから。何事もスピードをもって取り組むことにしたいですね。たとえば町名にしても湊、新富は湊町、新富町と言っているわけで改善すべきで、こうしたことも「間違いを改むるに、はばかることなかれ」の精紳でのぞみたいですね。


 昨年暮、江戸開府400年の江戸ルネッサンス会議では各講師が、中央区には素晴しい文化が蓄積されているのに生かしきれていない、と指摘していましたが、観光行政が唱われているなか、このあたりについてはどうですか。

 「外国人が東京を訪れるときに行きたい所は皇居と浅草の浅草寺と築地市場というんですね。築地がその3本指に入っているんですから、やはり銀座から勝どき、月島、晴海、それから日本橋と、観光行政には中央区の目玉としてね、力を入れていきたいですね。特に日本橋の上空をおおう高速道路の撤去は国も東京都もようやく本気になりだしたということでね。大いに意を強くしているところです。やはり中央区は賑わいが生命線ですから、千客万来の中央区として、大いに外国人も歓迎する町にしたいですね」


 勝どき橋を開けようということで地元でも具体的に動き出しましたが、どのような状況にあるんですか。

 「地域から『勝どき橋を開ける会』を発足させたいという声もでています。東京都も技術的な面と観光の側面とで2つの委員会を4月から立ち上げるそうですので、大いに期待しているところです」


築地の将来ビジョンで都と接衝


 具体的な課題として、区長は築地市場の移転問題について、中央区としてビジョンを打ち立てる方針を明らかにしました。このことの意図するものを「環状2号線の計画変更」と合わせて、お聞かせください。

 「築地市場移転反対この旗を降ろそうというわけじゃないんですよ。しかし万々が一、移転となって、その時にあわててどうするっていうことでは、行政としてだらしないし、関係者の皆さま方にご迷惑おかけすることになるわけですから、私たちとしてそれなりの見通しをもって対応していかなきゃならない、と思うんですね。この問題については中央区として『7つの疑問』(移転先の44ヘクタールの土地の確保▽現築地市場用地の扱い▽新市場への交通アクセス▽場外市場の問題▽移転までの間の現市場の整備▽豊洲の土壌汚染▽市場整備や幹線道路整備の財源確保)を提起してきたんですが、明らかになったのは土地の確保だけで、他は納得のいく回答が未だに来ていないわけです。にもかかわらず、都のいろんな行政計画には築地市場の豊洲移転を明記して、いわば移転を既成事実化しているわけで、これがいたずらに地域に混乱を引き起こしているというのが実情です」
 「さらに、豊洲への移転整備のスケジュールや工費など、東京都は自らの都合のみで環状2号線を地上化する案を一方的に提示してきています。環状道路は、都市の基礎インフラであるにもかかわらず、東京都の案ではまちの連続性をふまえた地区の将来のあり方や周辺の開発との連動など、まちづくりのビジョンが明らかになっていません。また、道路を地上化することは、大気汚染や騒音の増大、コミュニティの分断など、生活環境への影響も懸念されます。さらに、環状2号線の予定地には国と売却交渉をしていたにもかかわらず、地元との調整もなく民間へ売却することを容認した水産研跡地について、再度道路用地として買い戻すことにするなど、国公有地の公共の福祉にかかわる活用について、一貫性や地元との連携を欠いています」
 「築地市場の再整備問題や環状2号線など、東京都の地域のまちづくりを無視した一連の動きには強い憤りを感じざるを得ませんね。ある情報によると、東京ガスと東京都の関係もそれほどしっくりいったものではないようです。しかしながら、4年間という時間が経過する中で、東京都の動きを待つだけでは、事態がなかなか打開できません。また、景気が低迷する中で、市場の内外で事業を行っているかたがたにとって、先の見通しの立たないことによる商売への影響や苛立ちも大きくなっているんですよね。ですから、先ほども申したように、移転には断固反対を貫きつつも、東京都が行政責任を十分に果たしていないんですから、地元の住民が主導して、『食の拠点』としての築地の将来のあり方を考えていく必要があると考えるわけです。とりわけ、22.5ヘクタールの貴重な公有地(現市場)のあり方は、中央区全域の中長期のまちづくりを視野に入れて考える必要がありますね。地元の方々が中心となりつつ、銀座・月島・勝どき・晴海・日本橋など幅広い方々の参加によって検討していきたいと考えています。そして節目ごとに『断固反対する会』の方々や区議会とも相談しながら、1年間かけて区内全域の活性化につながるビジョンを作成し、それをもとに東京都に対して折衝をしていくことにしたい。そのことが、地域に責任を有する自治体に今、求められている、このように私は考えています」


 環状2号線とのからみもあり、その方向性はいつごろ明らかにしますか。

 「これはね、3月議会(予算議会)冒頭の所信表明で一定の方向性を示そうと思っています。やはりきちんとしたビジョンをもつことが築地ブランドを守ることになると、私も考えますからね」
15日の昼、月島をよくする会の会員30人が勝どき橋の清掃を実施。勝どき橋を開ける願いをこめて毎月実施するという。


創意工夫する学校には予算配分を


 学校週5日制の実施に続いて「ゆとり教育」が見直されるなか、中央区では中学校に学校選択性が導入されます。いずれこれは小学校にも及び、いよいよ学校ごとの独自性を競う時代に入ると思われます。

 「区内では、人口が地域によって偏在することから学校の規模の違いがあるとともにいわゆる『越境通学』の問題があります。区域外通学の基準を明確にしていく中では、学校ごとの特色づくりが一層、重要になります。したがってこれからは、創意工夫をこらした学校には重点的に予算配分するなど、地域にあった学校の支援をしていきたいと考えています。人口が回復するなか、各種の公共施設の需要も高まっています。しかし今後は、人口変動に応じて施設を整備していくよりも、現在ある公共施設を区民の貴重な共有財産としていく考え方が必要と思われます。区民参加、区民主導型のサービス向上の拠点として活動することによって、身近な地域で必要なサービスをあまねく受けられるネットワーク整備をすすめたいと考えています」
 「学校施設についても、時間外にこどもの『居場所づくり』や『多世代の交流活動』や地域の防災拠点などとして、有効に活用していく必要もあると考えています。ただし、地域に開かれた学校づくりを推進していくうえでは、学校の安心・安全の確保が大前提となります。これまでも学校の安全対策は地域とともに講じてきましたが、今月末には小中学生に防犯ブザーを配布することとしています」
 「さらに学校週5日制や学習指導要領の改正などにより、平成14年9月の教育モニターアンケート調査でも8割以上が『学力に不安を感じる』と回答があるなど、学力低下が懸念されています。『中央区の教育を考える懇談会』の答申などをふまえ、こうした課題も総合的に検討をすすめていきたいと考えています」

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