Q)48歳男性です。慢性的な肩こりに悩まされています。肩こりがひどいと頭痛も起きます。なぜ起きるのでしょうか。
A)肩こりの原因のひとつは、肩回りの筋肉群の構造にあります。肩甲骨の内側は菱形筋などの筋肉があるだけで、骨と骨との間の関節が認められません。
つまり肩甲骨は皮下に「浮いている」状態のまま肩周囲の筋肉群は頭や両腕など約15㎏もの重さを支えなければなりません。運動不足、筋力低下で、肩こりが生じるのも無理はない話です。また不良姿勢のままパソコン・タブレット・スマートフォンを長時間使用すれば、肩首周辺の筋肉群にさらなる負担を強いることは言うまでもありません。
筋肉が凝り固まると、そのテンションが頭部にかかり頭痛(筋緊張性頭痛)を引き起こします。
Q)肩こりはよくある症状と思うのですが、なぜなかなか良くならないのですか。
A)ご指摘の通り、日本では女性が悩む症状の第1位(12.5%)、男性では第2位(6% ちなみに1位は腰痛)にランクインするほど非常に多くの方に肩こりがあります(平成25年 国民生活基礎調査)。肩こりは疾患ではなく症状であることから研究が進みにくい領域です。
また働き盛りのビジネスマンやOLさんなどストレス世代の方は、強い肩こりを生じやすく実際、精神的要素が肩こりの悪化因子と判っています。日本人3,187名の統計学的な分析(2016年・藤井)によっても、重度の肩こりの発症と関連性が強い精神的な項目として「抑うつ(鬱々とした気持ち)があること」「仕事上の悩みで憂鬱な経験がある」「職場での低サポート(上司や同僚からのサポートが少ないこと)」があります。
ほか「女性であること」「睡眠時間が5時間未満」「運動習慣がないこと」が挙げられています。このように整形外科的トラブル以外に心理的、社会的側面が複雑にかかわるため難治性のことが多いのです。
Q)どんな治療法がありますか。
A)西洋薬は鎮痛剤やビタミン剤内服(血流改善や神経回復に有用)があります。局所の筋肉の緊張をほぐすストレッチング、体操などの運動療法、マッサージなどの徒手療法も用いられます。
肩こりに効く漢方薬は葛根湯(カッコントウ)が有名です。葛根湯に含まれる生薬、麻黄(マオウ)はエフェドリンなど鎮痛作用をもつ物質を含んでおり、痛みをとります。加えて葛根湯に含まれる桂皮(シナモン)には精神的な不安感を取り除く効果があります。しかし漢方の専門医という立場としては安易に葛根湯を服用されることはおすすめできません。高血圧、胃潰瘍の副作用を誘発しうる麻黄を含んでいるためです。またストレスが過剰な方は交感神経という自律神経系が過緊張であることが多く、葛根湯の麻黄はむしろ状況を悪化させる可能性があります。ほかにも、頭痛の合併例などに柴胡桂枝湯(サイコケイシトウ)、呉茱萸湯(ゴシュユトウ)が有効な場合もあります。ほか半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)、桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)という漢方薬などを主に処方します。肩こりのみならず、女性特有の生理不順などホルモン系の悩ましい症状もともに改善されることがよくあります。
針灸治療も肩こりに対しては非常に高い効果があります。一般的に肩こりや腰痛の治療に針灸のイメージは強いと思いますが、即効性を感じられている患者さんは実際非常に多く、高い治療効果が認められます。鍼灸院がこのハイテクな時代においても根強く支持されている理由は、肩こりに対するニーズや満足にしっかりと応える結果を出しているからでしょう。