A)平成が始まった1989年時点では「24時間、戦えますか?」という歌声が当たり前のようにCMに流れており、バブル経済の崩壊は、ほとんどの人が想像できなかったと思います。当時は医療費が潤沢で保険診療は安泰であり、多少無理して大病をわずらっても何とかなる、そんな気風があったように思います。ひるがえってあと2ヶ月で新元号の時代に突入する今。日本の医療は、世界の医療はどうなっていくのでしょうか。
私個人は、現在と同じ国民皆保険(いつでもどこでも保険証があれば、誰でも平等に医療が受けられる)は存続が厳しくなるのではないか、と考えています。「そうかなぁ」と感じる人は、近い将来もしくは今、現代医療を享受する方かもしれません。一方「そうかもね」と感じる人は、その医療費を税金で負担する若い世代なのかもしれません。今後、現在の医療制度が存続できるか不安を感じている若い世代の方が、これからの時代の流れに敏感なのでしょう。化粧品やサプリなどの健康食品関連に反応が早く、この日本橋や丸の内界隈でも漢方の生薬を用いた化粧品、健康食品を取り扱うデパート、ハイソなお店が増えています。「未病(みびょう)」の段階で健康を回復し、病に至らないように心がけたいという不安のあらわれなのかもしれません。
この現象は全世界的な流れです。西洋薬を開発するには莫大な費用、投資が必要で、その社会的な費用対効果を再検討する時代に入りました。「本当かな?」と思う方は、米国のNIH(アメリカ国立衛生研究所)から1998年に始まったNCCIH(アメリカ国立補完統合衛生センター)という組織を調べてみて下さい。アメリカでは2000年以降、国が(東洋医学をふくむ)伝統医学にどんどん研究費をつぎ込んで毎年だいたい1億2000ドル、日本で言うと120億円以上のお金をかけて研究されています。病ができる前の予防医学の重要性、伝統医学への投資効果に気づいたということです。皮肉にも、針灸ならびに漢方は日本より先にアメリカやヨーロッパで再評価されてきています。
すでに東洋医学の国際化・標準化が、世界的に起き始めています。WHO(世界保健機構)が死因や疾病の統計をとるための基準として公表している分類であるICD(International Classification of Disease)つまり「国際疾病分類」は、現在は第10版を用いていますが、次の第11版には伝統医学の項目が加わりました。東洋医学が西洋から逆輸入される時代を迎えつつあります。
以前、肥満と関係する腸内細菌について紹介しました(中央区のお医者さん 2018年11月)。腸内細菌の種類を変えることで肥満にもなるし、やせることもできる。食事の内容が重要なのですが、腸内細菌を変えることと、植物由来の生薬をあつかう東洋医学の視点とは多くの共通点があります。東洋医学は科学で説明することが難しく、西洋医学の分析観点からは長らく「非科学的」と言われてきました。 が、東洋医学は「未科学」これから解明の進む分野、と私は考えています。 新しい流れが東洋医学に起きていることを感じていただけると嬉しいです。
●参考文献
『自然の力で治す』(アンドレアス・ミヒャールゼン、サンマーク出版)
『すべての不調をなくしたければ除菌はやめなさい』(ジョシュ・アックス、文響社)
『ヒップな生活革命』(佐久間裕美子、朝日出版社)