岡本哲志著『銀 座』 土地と建物が語る街の歴史  

路地と街区に新提案も


 世界に冠たる繁華街としての銀座を語った本は文学書からガイドブックまで、おびただしい量になる。その中でもこのほど法政大学出版局より刊行された岡本哲志氏の『銀座』はユニークにして貴重な学術書である。
 岡本氏は銀座通連合会が80周年を迎えたとき、21世紀にのこる銀座ヴィジョンを描き出す作業に加わったメンバーの1人。1952年中野区の生まれで国内外の都市と水辺空間の研究で知られる。
 『銀座』はそのサブタイトルが「土地と建物が語る街の歴史」と銘うっているように銀座の街が土地とどのように関わって建物がどのように変化してきたかを江戸の成り立ちから始まって今日までを追っている。恐らくこうした視点で体系的に切りこんだのは初めてと思われる。
 時代ごとの紹介は紙上では無理だが、ここで紹介したいのは今日的視点からの銀座の都市づくりについての新しい見解である。
 まず銀座の路地。有名な1丁目の幸稲荷のある路地は昔ながらのたたずまいと風情をただよわせている。「周辺が新しいビルに変わりつつある中で、ここはなかなか趣きのある一画である」と評価したうえで、銀座には20坪ぐらいの土地にビルの建つケースが多いのは地価の高さからやむを得ないとしつつも、且つての「路地との濃密な関係は薄れている」「磨けば魅力的になる路地が今でもたくさん残る銀座である。ビルを建てる時に配慮すべき課題がここにあるように思う」と警告を発する。
 そこで紹介されているのがビルの中に再現された路地。銀座7丁目のTOTOビルが取りこわされて倍近いビルが建てられようとしたとき、銀座の人たちが南北の路地をなくさないでほしいと意見書をビルのオーナーに提出した。銀座通りから西側の、花椿通りから交詢社通りに抜ける路地をさしている。そこで新しいビルには、銀座通りから裏通りに抜ける通路をつくるとともに、従来の路地には24時間開閉する自動ドアにして路地を守った。このことを、「建物の中央に路地を通す町屋敷の原理が現代的にアレンジされ、表現しているようでおもしろい」と評価し、さらに「将来の銀座のあり方を示唆している」ともいう。


 王子ビルの課題 (4丁目の王子製紙本社ビル)


 3つの通りに面して公開空地とすることで当時(平成3年)としては銀座で最も高いビルを実現した。
 このビルのありようについて著者は三十間堀からひもといて興味ぶかい。この地域は堀の舟運を活用した街並が並んでいた。銀座の新聞社を支えたのもこの一角で、船で新聞印刷するロール紙が運ばれたという。この30間堀が埋められたことで、この一体は川沿いという顔を失い、銀座の裏側のイメージに変化していった。
 建物の地下に魅力的な音楽ホール、人がくつろげる公開空地といった配慮をしながら「この土地と建物はその他の魅力的な都市空間をつくりだしてきた銀座の街並みと一線を画したままである」と手厳しく指摘する。
 そこで著者は次のように新しい視点を説いている。
 「銀座において従来的な公開空地の手法が良いのかどうかも含め、銀座の歴史に裏付けされた土地と建物のあり方をもう1度問う必要がありそうだ。そして、そのための最大の課題は、異なった土地条件、それを生かす個々の手法から成立した異質の空間構造を、どのように緩やかに、しかも各々の空間の持つ環境特性を引きだしながら相互に魅力的な都市空間に再構築できるかということである。それは、個々の敷地だけで解決できる問題ではない」
 さらに「道は道、敷地に建つ建物は建物」という発想から、人の感性を豊かにする空間のため、銀座独自の道のあり方、銀座固有の土地と建物の関りを総合的枠組みの中で考えるよう提言している。

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