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伝統的食文化の行方を、築地魚河岸の現場からお伝えします 魚河岸発!
今月のテーマ:マグロの四季
よく最高級のホンマグロに限る、とか、大間のマグロは最高、などといいますね。確かにホンマグロの味わい深さは独特ですし、ことに大間のマグロは素晴らしいと思います。でも、それぞれのマグロには旬があります。ブランド物がいつでもおいしいとは限りません。季節ごとのおいしさを知ることが、マグロの賢い味わい方でしょう。

マグロは7種類

 皆さん、マグロって何種類あるかご存じですか? ホンマグロに、メバチマグロ、それからキハダマグロ。そしてミナミマグロ、通称インドマグロってやつですね。これらは皆さんもスーパーや魚屋さんで見かけるよくご存知のマグロでしょう。その他にもう3種類あるんですけど分かりますか。カジキマグロ? いえいえ、あれはマグロと言いますけれど、本当は全然別の魚です。他の3つには、まずビンナガというのがいます。肉色が白っぽくて生食よりも缶詰やなまり節に使われるマグロで、シーチキンの原料がこれですね。それから、コシナガと大西洋マグロというヤツ。どちらも日本ではあまり獲れず、商材としての価値が低いためにあまり食卓に並ぶことのない、なじみの薄いマグロです。そこで、まあ一般的にはホンマ、メバチ、キハダ、インドの4種類がマグロの主な顔ぶれといっても良いでしょう。

マグロにも旬がある

 さて、私はマグロ屋ですから、一年中マグロを売ってる、とともに年がら年中マグロを食べてもいます。そうすると非常に強く感じることなんですが、マグロにはそれぞれ旬があって、その味わいは時期によってまるっきり違うんですね。よくホンマグロは高価で、メバチは価値が低いなんて短絡的に考えがちでしょ。でもそんなことは全くないんです。確かに値段に差こそありますが、それはいわゆる市場原理というやつで、本当の美味しさを考えれば、それぞれの「旬」が価値を決めるといって良いと思います。マグロの旬、といっても皆さんにはなかなか分かりにくいことでしょう。そこで今回は、市場に揚がる季節のマグロ、これについてご紹介したいと思います。

キハダ春はキハダ

 「枕草子」に春はあけぼの…というのがありますが、それふうに言えば、春はキハダ。ようよう脂がまわりぬ、と、こうなりますね。いや、キハダというのは関西では大変好まれますけど、関東じゃあまり人気がありません。実際のところ安価なマグロの代名詞のように言われていて、よくスーパーとのやり取りでも「来週の特売はどうします?」「じゃあキハダにしましょうか、安くできるし…」なんて扱いを受ける低い地位に甘んじています。ところが春先のほんの2週間ほど、このキハダが旬を迎えて、とんでもなく美味しくなるんですね。私はすべてのマグロのなかでもこの時期のキハダが一番美味しいと思います。大好きですね。四ツ割にすると分かるんですけど、もう赤身にまで脂が乗るんです。もともとキハダは赤身とトロがはっきりしないんですけれど、この時期のものは身体全体に脂が行き渡ってるんですね。その脂とうのもホンマグロとはまた違った独特の甘味があって本当に美味しいんですよ。ほら、最高に脂の乗ったホンマグロの大トロなんて寿司屋でふたつも食べれば「もういいや」って思うでよ。ところがキハダの脂はね、飽きが来ないんですよ。皆さんはそんなキハダを食べたことありますかね。多分ないでしょうね。よく本当に美味しいキハダをスーパーに奨めるんですけど、いやがって仕入れませんからね、この時期のものはそれなりの値段がするし。でも、もしも春先キハダに出会ったら、ぜひご賞味ください。マグロに対する認識が変りますから。

夏はミナミ

ミナミ 夏、それも今年のように暑い夏には近海もののマグロなんかちっとも美味しくありません。そんなときは遠く海外に眼を向けましょう。そうです! 南半球は冬ですね。ミナミマグロが旬を迎える時期なんです。私ね、よくスーパーなどでマグロの解体実演なんかやるんですよ。先日のこと、オーストのミナミマグロだよ! って言ったら、前の方で見ていた奥さんが「なんだ大間じゃないの?」って。そう! 大間じゃない。ねえ、お母さん考えてもごらんなさい。今は夏で毎日うだるような暑さだ。海の中だって25℃もあるんだよ。マグロはどうなってるだろう。お風呂の中を泳いでるようじゃないの? そこへいくと南半球のオーストは冬だ。マグロも脂がのって気持ち良く泳いでいるよ。そう言うと「あー、それもそうネエ」だって。確かに大間のホンマグロは最高です。素晴らしいマグロですよ。冬場にはね。ホンマグロの旬が冬だから。それ以外の季節はどうってことありません。でもブランドイメージっていうんですか。何が何でも大間が最高だって思ってる人が多いですね。無理もありません。こう毎日グルメ番組たれ流してりゃね。“マグロ一本釣りに命をかける大間の男たち”ですか。私もそういう番組見て、けっこう胸が熱くなったりしますけどね、商売柄。でも、ああいう人たちは冬場以外は決して命かけたりしないと思います。

メバチ(上)、ホンマ(下)秋はメバチ、冬はホンマ

 メバチというヤツはサクラの咲く頃にちょいと美味しくなるんですけどね、それはほんの小手調べ。本当にすごいヤツは秋口にやってきます。9月の終わり頃から出回るメバチはね、好みの差こそありますが、ホンマよりもずっとうめえよ、なんて言う商売人も多くて私も同感。この時期のバチといったら脂もさることながら身に水気がまったくない。包丁を入れても止まってしまうくらい身がしまっているんですよ。「トンボを見たならシビよりもダルマ」。あ、シビってのはホンマグロ、ダルマってのはメバチのことです。そして冬、真打ホンマグロが威風堂々と登場してまいります。11月下旬から年をまたいで1月下旬ころまで。これがホンマの旬。この時期のものは確かに最高。大枚使ってホンマを食べるなら冬ですよ。ああ、でも旬だから値段もちょっぴり安くなります。だから結構リーズナブルな高級感かもしれないですね。

生田與克―いくたよしかつ
1962年東京月島に生れる。
築地マグロ仲卸「鈴与」の三代目として築地市場で水産物を扱うなかで自然の恵みの尊さ、日本特有の魚食文化の奥深さを学ぶ。
現在、講演会などを通じて魚食の普及に努めるほか、ホームページ「魚河岸野郎」を開設。魚河岸の歴史と食文化を伝える“語り部”として精力的に活動している。

「築地の魚河岸野郎」
http://www.uogashiyarou.co.jp/


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2004年8月掲載記事  
※内容は、掲載当時のものとなります  

 

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