中央区 花と緑のまちづくり 第4回
豊かか緑と。季節ごとの花々が咲き競う「晴海アイランド トリトンスクエア」

晴海アイランド トリトンスクエアは、3棟の白い高層オフィスが遠くからも目を引く晴海のランドマークです。その足元には、都心とは思えない豊かな緑と、季節ごとの花々が鮮やかに色を競う庭が、高低差を生かして配置されており、訪れる人々の安らぎと憩いの場になっています。

2004年10月30日から11月3日の5日間、「晴海フラワーフェスティバル インフィオラータ」が開催されました。

★☆★ 晴海フラワーフェスティバル インフィオラータ ★☆★

「インフィオラータ」とはイタリア語で「花の絨毯」のことで、ジェンツァーノ市のインフィオラータは毎年6月に行われ200年以上の歴史をもちます。

トリトンスクエアでは2001年から自然との共生、地域とのコミュニケーションを図る催しとして2001年より毎年その年ならではのテーマを決めて開催しています。

2004年は音楽活動を中心に環境問題や教育問題、国際協力のイベントにも積極的に参加されているミュージシャンの白井貴子さんの呼びかけで集まった「夢いっぱいの地球」をテーマにしたポエムを、イタリアのアートディレクター アントワーヌ・チェザローニ氏がデザイン画を創作し、17万本のバラの花びらで表現されました。


商業棟につながる屋上庭園には、様々なハーブを中心に多彩な植物が自然に生い茂る、公開空地では例をみないガーデンがあり、レンガ色の建物との調和が成熟する街の雰囲気を醸し出しています。この庭園のプランにも参加された、町田ひろ子アカデミー 町田ひろ子代表にお話を伺いました。

◆町田ひろ子アカデミー 町田ひろ子代表にお話をうかがいました

「庭園」の経緯と価値


町田代表:現在全国9つの都市に「町田ひろ子アカデミー」を開校。晴海トリトン校は2001年4月に開校

六本木ヒルズなどの大規模な都市開発により、公開空地を利用して都市の緑が増えてきています。

私は公開空地が“通過”の場ではなく、散策し休養する場となることを願い、私が経営するガーデニング等のプロを育成するアカデミーの前庭にもなることもあって、緑のテラスはハーブを中心に多様な植物で構成される「庭園」をイメージしました。


四季折々の変化を見せる町田アカデミー前の緑のテラス

計画当初は、南側に高層ビルが並び、海も近いということで、強風や日照不足の影響などが懸念されていましたが、朝日や夕日が十分にあたり、また海からの強風がさえぎられる予想外の効果もあって、今では植物が生育して、豊かな屋上庭園になりました。

多彩な植栽による屋上庭園が、花をテーマとしたイベントと相乗効果を生み、他の大規模都市開発にはない、トリトンスクエアの付加価値=バリューとなっていると思います。

散策と休息の緑のテラスガーデンの特徴

ハーブを中心に多種多様な植物を植え、それぞれの植物の適応能力に任せて自然に育成しました。ハーブは元々荒地に生えていたものが多く、環境適応力があり相当元気に育っており、計画は正解だったと思っています。このようなガーデニングのよいところは、それぞれの草木が育成し、繁栄も淘汰もあり、環境にあった景観が年月とともに形成されるところです。花の咲く草木も多いのですが、花の色は紫と白をベースに、黄色をアクセントに計画し、統一感のある庭園ができたと思います。


ショップ&レストラン「晴海トリトン」前の花のテラス

歩道はスロープをごく緩やかなものにしたり、ウッドブロックを採用するなど変化をつけ、ところどころにベンチを配置するなど、ごく自然に散策と休息ができるように配慮してあります。

また、歩道間近は地面を低くして、植物が歩道に被るように工夫し、歩道から離れたところは盛り土を高くし、植物も背の比較的高いものとして、自然な感じのする植栽となるよう工夫してもらいました。

商業施設に囲まれたエリア・花のテラスは、彩りの鮮やかな季節の花を植え替え、この庭園とは異なる華やぎのある庭になっています。インフィオラータのようなイベントも映え、来る人の目を惹きつけるものです。

屋上庭園のネットワーク

晴海トリトンスクエアのまちづくりでは、グランドレベルは自動車の通行、低層棟屋上のデッキレベルが人の通行と、歩車分離が徹底されています。

デッキレベルは、商業エリアでは散策の庭園、都の賃貸住宅前では遊具のある子どもの広場など、それぞれのゾーンごとに役割分担した屋上庭園になっており、レベル差なくつながっています。そのため、回遊性のある安全な人のための空間のネットワークができています。

安全でフラットな歩道がつながっていますので、近接する特別養護老人ホーム「マイホームはるみ」や、保育園・幼稚園から、お年寄りや子どもたちが毎日訪れて楽しんでいる姿が見られます。

このような、隣接する街区も含め、車のこない屋上庭園を連結し緑のネットワークを広げてゆくという考え方は、今後のまちづくりにも展開できるのではないかと考えています。

緑が高める不動産の付加価値

私は地権者の一人でもある立場なので、テナント、地権者も含めたまちに関わる全ての人への付加価値づくりということを重視します。しかし、付加価値は伝わりにくいものです。アメリカで環境デザインを学ぶ中で、時間をかけて環境を育ててゆくことが不動産の価値も高めてゆくという考えの大切さを知りましたが、日本では、いまだに建物が古びるにつれて不動産の価値は下がってゆくものであることを、非常に残念に思っています。

晴海トリトンスクエアでのアカデミーの開設は、清水の舞台から飛び降りるような決意を要しましたが、これによって不動産の価値を高める環境というものを、実物をもって示せるようになりました。説明なしで「これである」ということを伝えられることはすばらしいことです。

この屋上庭園を管理する住友商事の関連会社には、樹種が多く葉の摘み取りなど通常より大変な手入れをいただいているだけでなく、アカデミーの講師としても、植栽の手入れの実務を生徒に教えていただいています。愛情をかけて世話をした植物は、形を変えよくなってゆきます。このようにして環境というバリューを高めてゆくことができつつあるように思っています。

庭園からのメッセージ

この庭園に来た人は皆、花の種類の多さに驚かれ心惹かれるようです。この庭園だけを見にわざわざ訪れてくれる方もいらっしゃいます。それだけ価値のある庭園が出来上がっていると思っています。計画段階での苦労は多かったのですが、結果的に想像以上の庭園が実現できてよかったと思っています。

ビューティフル・バリアフリーがまちづくりのテーマの一つですが、段差がないとか手摺をつけるということでバリアフリーが実現するものではありません。この庭園を通じて、バリアフリーはあらゆる面で人にやさしいということだと、示唆していけたらと願っています。


back