このコラムは書籍『私の芸能生活六十五年』を、数回に分けて掲載いたします。
語り: 藤間 小紫鶴  聞き書き: 笠原 陽子

 

■面白かったTVの「百年目の恋」

 

 

 当時、TVにもレギュラーで出てたの。十朱幸代さんの「百年目の恋」の時は面白かったわよ。ほら、うちが料理屋やってるでしょ。たまたま、あたしの役が料理屋の仲居だったのね。
プロデューサーが隣に来て、「芝居以外は普段、何やってるの」って聞くから、はい、いつも仲居やってますって言ったら、「面白い人だね、あんた」って。笑っちゃうでしょ。本当なんだから。うちではいつも手伝っているしね。
収録が終わると、仲居用に結った髪を髪結いさんが、元に戻してくださるんだけどさ。あっ、このままにしといてください、これから帰って仲居をやるんですからって。ね、面白いよね。
あの時は本当に褒められたね。「きみ、上手いね」って。
「ハイ、三人様お着きですよ」なんて言ったり、お酒を持っていったり、間合いとかリズムとか慣れたもんですもの。
 このドラマは一年、つづいてね。出演者も凄い役者が揃っていたわ。沢村貞子さん、扇千景さん、曾我廼家明蝶さん、植木等さん、長門裕之さん、浜畑賢吉さんなんかが出ていたの。
十朱幸代さんも、まだ若くてさ、沢村さんなど大ベテランと、同じ部屋は、居ずらいらしくて、いつもあたし達の部屋にきていたわ。

 

 

■菊田一夫の赤毛ものにも

 


 考えてみれば、あの時、一緒に出演していた曾我廼家明蝶さんから誘われて、赤毛ものにも出たの。
 菊田一夫先生演出で、那智わたるさんと石坂浩二さん主演の「花咲ける騎士道」ってのに。
 この時は、役のことで、嬉しいハプニングがあったのよ。
 顔合わせで行って見たらね、あたしの役は、その他大勢の街の女でさ。不服でね。演出助手に、私の役は街の女しかないんですかって、恐る恐る言ったら、「こっちには村の女もあるよ」って言うんだからね。全く。
 いや、そういうんじゃあなくって。ちゃんと、台詞のある役があると聞いて来たんですよって、事情を話したのよ。そしたら「君、どこの出身なの」って所属先を聞くわけよ。
 どこの出身でもないから困ってね。あのー。東映歌舞伎……って、どさくさに紛れて答えたら、「ああ、お姫様スターだったんだ」って。まあ、そんなところでーって、もぞもぞしながら言ったのね。
 そしてね、街の女達に、あたしが手招きするシーンで、手招きでなく、台詞で言っていいんですかって聞いたの。
 「いいよ」ってことになってね。あたしがね、「みんなこっちに来て、こんなに、いい席があったわよ」って、自分で台詞考えて言っちゃったのよ。
 そしたら、そこに、たまたま菊田先生が来て、
 「あの子どうしたの」って演出助手に聞くのよ。ドキッとしたね。怒られるかと思ってね。
 「台詞がないから台詞がほしいって言うから」って演出助手が説明したら、なんと、菊田先生が、「あ、そう、一人二役している人がいるから、あの子に一人あげなさい」って。
 もう、びっくり。
 菊田先生とは、その時、初めて会ったのに、ほんと、びっくりしちゃった。周りの役者さんも、みんな驚いていたわよ。
 三林京子さん演じるアンリエット姫の待女役なのね。
 これがまた、素晴らしいのよ。急きょ、かつら合わせや衣裳合わせをしたんだけどさ。紫のロングドレスが素敵なのに感動したわよ。
 那智わたるさんが着る予定の衣裳だったんですって。
 そういった、ハプニングは時々あったわね。
 そういえば、こんなこともあった。
 東映歌舞伎に呼ばれてね、六人で踊ることになっていたのよ。行った時には、すでに六人が揃っていてね。
 あたしが呼ばれたのに出番がないんですかって、プロデューサーに言ったら、突然、月形半平太の「雛菊」をやることになったのよ。
 とにかく嬉しかった。なんたって、ファンの松本錦四郎さんが、月形半平太なんだから。もうね、出るだけで嬉しいのに錦四郎さんに手を引いて貰うんですもの。
 凄いでしょ。そうやってうまい具合いに役が来ちゃうのよ。あこがれのスター達と共演出来るのよ、それだけで、あたしは満足しちゃうのね。
 だってそうでしょ。大変な世界なんだから。他の人から見れば本当にうらやましいと思うよ。
 それとね、築地出身ってのも、この世界に入って便利だったわ。 どこ出身かって聞くから、築地って言うと、名前はなかなか覚えてもらえないけど、「おい、築地」って呼ばれたりしたわ。
 築地でうちが料理屋なんかやっていたから、いろいろな関係者もお客さんで来ていたし。家の前には平凡社さんがあったり、松竹が近かったりしたから、そのお客様が、食事しに見えたりしていたのね。
 舞台やTVの他に映画は二度ほど誘われたけど、映画はそんなに執着がなかった。何か夢みたいでね。映画はよく見ていたしさ。だから、その映画の人達と舞台で共演できるのが楽しかったのね。


【写真 菊田一夫先生演出の「花咲ける騎士道」お気に入りのドレスで】

 

つづく…
(次回 『いじめられても、のほほん』 10月13日にアップします。お楽しみに)

 

  
 
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